タレント・東京科学大学非常勤講師
パックン(パトリック・ハーラン)氏
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マーケティングコンサルタント
西川りゅうじん氏
大人も子どもも
お金について学ぼう‼
子ども頃のアルバイトで
育まれた『逆境力』
西川:パックンは今や日米の懸け橋としてマルチな才能を遺憾なく発揮していますが、「栴せんだん檀は双ふたば葉より芳かんばし」という通り、子どもの頃からアルバイトして離婚したお母さんを経済的に助けていたのですね。
パックン:当時、家計簿を見て泣いていた母は、いまだにボクに「ごめんね」と言います。でも、結果オーライです。それに家計を助けるというより、自分がほしいものは自分で稼いだお金で買うようにしていただけです。「お金がないからできない」ではなく、「お金がないから、〇〇すればできる」と発想転換したわけです。
西川:お母さんにとって学費やお小遣いを自ら稼いでいたパックンの存在は心強かったにちがいありません。いつからアルバイトを始めたのですか?
パックン:8歳のときにYMCA のサマーキャンプに参加するためにお菓子を訪問販売したのが最初のアルバイトでした。そして、10歳の誕生日の翌日から新聞配達を始めました。最初は歩いて配り、その後、自転車で、そして16歳で免許を取って、自分で貯めたお金で車を買い、最も多いときは440軒に配っていました。
西川:寝るヒマもないでしょう。それで高校を首席で卒業したわけですよね!
パックン:朝3時半に起きて新聞社に新聞を取りに行き、家で新聞に折込広告をはさんで輪ゴムで留め、雨の日はビニール袋に包み、6時半までに配達を完了。その後、車の中で牛乳とシリアルの朝食を摂って、7時20分に授業が始まるまで自分のロッカーに頭を突っ込み、廊下に足を投げ出して仮眠を取りました。
西川:若き日の実体験が心の強さを育み、パックンの人生を切り拓く力となったのですね。
パックン:以前に『逆境力』という本を書きましたが、逆境のおかげで精神力が身に付き、歩むべき道を見つけられたと思います。小さい頃からお金持ちになりたいというより、冒険したい気持ちが強くありました。お金のために生きているのではありません。昔も今も預金残高は気にせず、収入が支出を上回っている状態を守っていればいいと思っています。
西川:なるほど、パックンの考え方は「稼ぐに追いつく貧乏なし」という日本の古いことわざと相通じますね。稼ぐお金より使うお金の方が少なければ貧乏神が追い付いてくることはありません。
パックン:日本に来て、福井県での英会話教室の先生に始まり、ラジオ局のDJ、そして芸能界デビューと、幸いなことに、お金のためだけの仕事を選ばず、“お金にもなる”仕事に就く冒険の道を選んで生きてくることができました。
お金は「ありがとうの形」
西川:パックンは私たちが気付かなかったさまざまなことを気付かせてくれていますが、お金についての教育の重要性についても発信していますね。たしかに、家庭でも学校でもお金について考えたり、学んだりする機会があまりないように感じます。
パックン:子どもの頃からお金に対して肯定的なイメージを持ってほしいと思い、『パックンの森のお金塾 こども投資』という本を出しました。この本の中で、お金は感謝を形に変えたもの、つまり、“ありがとうの形”だと伝えています。
西川:たしかにお金は、何かを作ってくれた人、してくれた人への感謝をあらわすものですね。
パックン:商品やサービスを提供した人が受け取るお金は、誰かに喜びを与えた証拠ですから、受け取る人はもっと喜びと誇りを持ってもらいたいです。そして、子どもたちには、お金の大切さと素晴らしさを知ってもらいたいと思います。
西川:お金がすべてではありませんが、正しく賢い、お金の使い方、稼ぎ方、増やし方に、なるべく若いときから触れることは重要ですね。
パックン:お金は思い出や体験を手に入れる交換手段でもあります。ほしいものを買い、いらないものは買わない。そして、仕事をする意味や、仕事は自分が選んだ道だという意識が大事です。生きるために好きではない仕事をせざるを得ないときもありますが、それも選んだ道です。イヤならば、自ら別の道を切り拓くしかありません。学校の勉強でも課外活動でも自ら新たな選択肢を生み出してもらいたいです。それは将来に向けて仕事について学ぶ体験にもなります。
西川:投資の神様と呼ばれるウォーレン・バフェットも「投資家になれ」とは言わず、「ワクワクするもの、情熱を持てることを見つけよ」と述べています。彼にとっては、それが投資だったのですね。
パックン:英語で"If you do what you love, you'llnever work a day in your life,"という言葉があります。大好きなことをやっていれば、生涯1日も仕事しないですむという意味です。大好きなことで稼げたら最高ですね!
西川:日本には好きなことを究めて「匠」(たくみ)の技にまで高める職人気質があります。
パックン:「匠」は一つのことを究める日本の素晴らしい文化です。一つだけの道を究めなくても、日々の生活の中に匠を見出すことができたら嬉しいですよね。
西川:ワクワクして究めたいとガンバっていることの価値を測る尺度がお金であり、その価値の対価を得られるのは素晴らしいことです。
パックン:大人も子どもも、自分のお金について楽しく学び、お金に踊らされるのではなく、お金を持って踊る人生を歩んでもらえればと願っています。
西川:子どもたちにはもちろん、子どもを持つ親やこれから親となる人たちにも、ためになるお話をありがとうございました!
アメリカ・コロラド州出身。ハーバード大学卒業後に来日。1997年、吉田眞とパックンマックンを結成。情報番組「ジャスト」、NHK「英語でしゃべらナイト」で一躍有名に。現在は教育・情報番組に出演する他、2012年より東京科学大学非常勤講師に就任し、「コミュニケーションと国際関係」について教鞭を執る。著書に『ツカむ!話術』(角川新書)、『パックン式 お金の育て方』(朝日新聞出版)、『パックンの森のお金塾 こども投資』(主婦の友社)等。