萩 裕美子 × 西川 りゅうじん 【巻頭特別対談】

写真:萩 裕美子 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

東海大学 大学院 体育学研究科長
体育学部 スポーツ・レジャーマネジメント学科
主任教授 萩 裕美子先生
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健康寿命をのばそう運動主宰
西川りゅうじん氏

「快運(快い運動)」で健康づくり♪
楽しみながら気軽に体を動かすのが
本来のスポーツ!

西川:萩先生は、文部科学省やスポーツ庁、神奈川県等で諮問委員を務める一方、オリンピック選手の育成、市民が地域で気軽に運動・スポーツができる場づくりに努めるなど、理論と実践の両方でみんなの健康づくりに大きな力を発揮しておられます。

:スポーツといえばオリンピックなどの競技スポーツをイメージする人が多いでしょう。また、体育の授業で習わない種目は運動・スポーツとは思わないかもしれません。でも実は、日常生活の中で楽しく体を動かすことこそが、本来のスポーツなんです。

西川:そういえば、先生は中学校の保健体育でダンスが必修になった際、いち早くDVD付きの『中学校ヒップホップダンス指導の教科書』を監修されました。また、編集に携わられた『頭と体のスポーツ』では、野球やサッカーはもとより、囲碁や将棋やカルタも頭を使うスポーツとして紹介されていて驚きました。

:英語の「Sport」は19~20世紀に世界的に使われるようになった新しい言葉で、語源はラテン語の「deportare」(デポルターレ)といわれます。そもそもスポーツとは、楽しみを与えてくれるもの、気分転換してくれるもののことです。ヒトは体と頭を分けて考えることはできませんよね。カルタ取りなどは、結構、体を動かしますし、瞬発力も必要でしょう。

図:Qulity of Life

西川:なるほど、ストレス解消と生活の充実につながることがスポーツだと思えば、「最近、ちゃんと運動してないな」などと落ち込んで逆にストレスを感じることもないですね。通勤・通学や買物で、新しい美味そうなお店を探しながら、ちょっと早歩きするだけで立派なスポーツになる?

:その通り!まず気楽に始めてみてください。毎日の生活の中で、体を動かす楽しいきっかけを多く創ることが続けるコツです。体を動かすと気持ちも晴れて、なんとなく体の調子のよさを感じられるにちがいありません。

西川:ジョギングシューズを履いて長距離を走ったり、スポーツクラブで筋トレをすることばかりがスポーツじゃないとわかると気が楽になります。

:スポーツの概念が狭いままでは、習慣的に運動を行う人は増えないでしょう。スポーツは苦手だけれどやってみたい、苦手だからやりたくない人も、楽しみながら、ちょっと体を動かしてみることが大切です。

西川:これは萩先生が研究されているスポーツの対象者の図ですね。強い人が上で弱い人が下になる縦方向ではなく、横方向に考えようということですか。

:人の健康に明確な区分はなく、同じ人でも体調などにより左と右を行ったり来たりしますから、縦の階層ではありません。今までスポーツは半健康人より左側の人を対象にしがちでしたが、リハビリ中の人や虚弱者もカバーできる仕組みが必要になっています。病気を抱えている人も少しでも元気で、今日一日楽しかったと思えたらいいですからね。

西川:誰しも、どんなときも、日常生活で楽しみを見つけてQOL(生活の質)を向上させることが大切なんだと気づかされました。

:健康は数値でセグメントできません。誰でもケガや事故で車イス生活になる可能性もあります。健康を広くとらえることができれば、障害や病気のある人にも本当に優しくできるようになるでしょう。

西川:萩先生は保健体育と栄養学を研究され、体の外側と内側の両面からの健康づくりの先駆者としてご活躍です。先生の「快食、快眠、快便、そして快運」というお考えを教えてください。

:まず、快食とは、会話を楽しみつつ、食べる楽しさを感じながら、しっかりと食べて栄養素を摂取し、体を作ることです。食事が睡眠とお通じのリズムの元ですから最も大切で、この快食が、快眠、快便につながるのです。

西川:どのような食事のとり方がベストでしょうか?

:ある程度決まった時間に食事をし、4~5時間の食間をおくようにします。そうすれば内臓への負担が軽減され、代謝がうながされます。女性の死因の1位は大腸がんです。なるべく伝統的な和食の機会を増やして、食物繊維をしっかり摂っていただきたいですね。

西川:快運とはどういう意味ですか?

:快運とは心地よく運動することです。日中に体を動かせば、自然とお腹がすき、夜はよく眠れて、排泄もスムーズになって好循環になります。すべてはつながっているのです。

西川:最後に、Withコロナ時代を元気に生き抜くアドバイスをお願いします。

:運動不足を放置すれば、体力は落ちる一方です。10分でも20分でも時間を見つけて、体を動かしたり、伸ばしたり、場所を移動して気分転換をしてください。体力の低下は待ってくれません。特に高齢者は低下のスピードが速いので、周りの人の声かけや協力も必要です。一緒に散歩して、人に会ったり、いい景色を見るなどすれば、体も心も健やかになります。

西川:お話をうかがう中で、萩先生のように、いつも笑顔でいることが大切だと感じました。楽しいお話を、ありがとうございました!

Dr.Hagi'sTopic 東海大学体育学部 スポーツ・レジャーマネジメント学科
Ryujin'sTopic 神奈川県地方創生推進会議

萩 裕美子先生プロフィール

写真:萩 裕美子先生

浅草生まれ。東京学芸大学を卒業後、東京YMCA専門学校で専任講師を務め、その間に女子栄養大学を卒業。博士号(保健学)取得。その後、鹿屋体育大学に赴任し、同学教授を経て、2009年から東海大学教授。2016年より体育学研究科長。文部科学省「全国体力・運動能力、運動習慣調査に関する検討会」委員、スポーツ庁スポーツ審議会委員等を歴任。神奈川県地方創生推進会議委員、鹿児島県鹿屋市ばら大使などを務めている。