森下真紀 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

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日本歯科総合研究所代表取締役社長 森下真紀氏×健康寿命をのばそう運動主宰 西川りゅうじん氏

口臭による「スメハラ」に無頓着な日本人

西川:先生は口腔(歯と歯周組織)の健康こそが体全体の健康のもとだと発信に努めておられますが、口臭による「スメハラ」にも警鐘を鳴らしておられますね。

森下:臭い(スメル)で周囲に不快感を与えるのがスメルハラスメント、略してスメハラです。私たちは欧米人より比較的、体臭がキツくない反面、自分が発する臭いについての意識が希薄です。そのため、日本人の口の臭さは実は世界的に悪評が高いのです。

西川:日本には古くから香道のように香りを大切にする文化がある一方、口臭のケアに無頓着かもしれませんね。

森下:「舌苔(ぜったい)」という、舌に付着した白いコケ状のものが雑菌のたまり場なんです。鏡で見て、この舌苔があれば確実に口臭がします

西川:ぜったいイヤですね!そもそも口臭の原因は何なのですか?

森下:胃腸が悪いせいだと思われがちですが、実は口臭の原因の90%は口の中にあります。歯周病菌により発生する揮発性の硫黄化合物が悪臭のもととなり、卵や魚が腐った臭いがするのです。ですから、常日頃からの歯周病予防が口臭の最大の予防策です。

西川:口臭が気になる時のアドバイスがあれば教えてください。

森下:唾液が減ると臭い物質が気化しやすくなるので、唾液をしっかり出すことが重要です。唾液には歯周病菌を退治する効果もあります。口臭が気になったら、早食いせず噛む回数を増やして唾液を出しましょう。ガムを噛むのもいいですし、耳下腺・顎下腺・舌下腺の3大唾液腺をマッサージすると唾液が出やすくなります。

口臭の元・歯周病菌が認知症や糖尿病の原因に?

西川:歯周病菌は口臭どころか、認知症の原因になるともいわれますね。

森下:歯周病菌が脳に侵入するとアルツハイマー型の認知症を引き起こす可能性があるといわれています。また、歯周病は糖尿病の高リスク要因でもあります。口臭の元となる菌が重篤な病の引き金ともなり得るのです。

西川:日本では体全体の健康と口腔の健康は別だと認識されがちです。内科には健康診断や定期健診で毎年通っても、歯科は歯が痛くてたまらない時に行くだけですからね。

森下:歯科医療先進国であるスウェーデンでは20歳までの歯科治療費は無料で、子どもの頃から口腔ケアが当たり前です。一方、アメリカは医療費のほぼすべてが自費負担ですから、虫歯や歯周病になって高額な医療費がかかるのを恐れ、自ら口腔ケアを心がけます。

西川:プレジデント誌による定年退職後の人の「健康に関してやっておけば良かった後悔」の1位は歯のケアです。日本にはありがたい保健制度があるわけですから歯科に口腔の定期健診に行くべきですね。

口の中の健康に気をつけて一生涯、自分の歯で噛もう!

森下:口の中には、その人のマナー、身だしなみ、生活のすべてが如実に表れています。日頃から口腔の健康に気をつけている人は長生きできる確率も高まります。

西川:多くの病原菌は口から入ってきますからね。

森下:うがいや口腔のケアは、インフルエンザをはじめ、多くの感染症の予防のためにも必須です。

西川:口から食べた物で体はできているわけで、医食同源の言葉通り、口は医療と食のみなもと。健康・長寿・美容のために口の中の環境を軽視してはなりませんね。

森下:噛むことは、脳内の血流を増やし、脳の運動野や感覚野、前頭前野、小脳を活性化します。また、記憶をつかさどる海馬を刺激し、記憶力を高めるとも考えられています。

西川:大分・高崎山のボス猿やマドンナ猿も歯が悪くなると毛並みや動きが精彩を失い、その座を奪われると聞きますが、人間も同じですね。歯は体や脳の機能だけでなく、心の健康にも影響があるのですね?

森下:噛むことはストレスを緩和し幸福感を高めるセロトニンの分泌を増やし、うつの改善にも効果があるといわれていますね。

西川:健康な歯で笑えることが、まさに笑う門には福来ることにつながるのですね。

森下:一人でも多くの人が口腔の健康に気をつけて、一生涯、自分の歯でしっかり噛んでいただくことが私の願いです。

西川:年齢の齢は歯に令和の令と書きますからね。いつまでも令しく(うるわしく)齢を重ねるには、歯と口の中の健康が大切なのだとよくわかりました。貴重なお話をありがとうございました。

森下真紀氏 プロフィール

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歯科医師・歯学博士・株式会社日本歯科総合研究所代表取締役社長。
国立東京医科歯科大学歯学部歯学科首席卒業。
在学時、英国キングスカレッジ歯学部留学。
その後、東京医科歯科大学歯学部附属病院研修医を経て、同学大学院入学、博士号取得。
日本学術振興会特別研究員。
「日本を世界一の歯科先進国へ」をミッションに歯科業界の発展に尽力している。
今秋に口腔ケアの啓発本(Topic 参照)を上梓予定。