澤岡詩野 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

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公益財団法人ダイヤ高齢社会研究財団 主任研究員 澤岡詩野先生×健康寿命をのばそう運動主宰 西川りゅうじん氏

日常のなかで「つながり」のタネまきをしてみよう!


人生100年時代をどう生きる?

西川:人生100年時代を迎え、高齢者一人一人がどのように生き、生きがいを見いだしていけばよいのか、そして、家族や地域はどう対処していけばよいのかが問われています。そんなモデルのない課題に対して、澤岡先生は「老年社会学」の第一人者として各地で実地に研究に取り組み、大きな成果を挙げておられます。そのきっかけは何だったのですか?

澤岡:実は大好きだったおじいちゃんのお陰なんです。私は自他ともに認めるおじいちゃん子でした。祖父はいつもおしゃれで、仕事から引退後も社交ダンスや旅行にいそしみセカンドライフを謳歌する、孫にとって自慢のおじいちゃんでした。ところが、建築を学んでいた学生時代、その祖父が70代で心筋梗塞に倒れ、足に軽度の麻痺が残ったことから一変してしまったのです。

西川:澤岡先生のおしゃれで社交的なところはおじい様譲りだったのですね。そのダンディなおじい様がどう変わったのでしょう?

澤岡:家に閉じこもりがちになり、おしゃれにも世間にも関心を持たなくなってしまいました。そんな祖父に接して、「人が歳を取るとはどういうことなのだろう?」「歩けるのにどうして出かけないのだろう?」「どんな居場所があればイキな祖父のままで生き続けられたのか?」と疑問を持ったことが、研究者として高齢者と社会について考える原点になりました。

西川:なるほど、ご自身の実体験によって、都市環境とコミュニケーションのハード・ソフト両面から超高齢社会の在り方を研究されるに至ったわけですね。澤岡先生は各地での研究を踏まえて、つながりが希薄になりつつある地域社会における、ゆるやかなつながりの重要性を力説しておられます。

澤岡:ライフスタイル別の長寿への影響を調べた調査でも、つながりが少ない人は身体的にも心理的にもネガティブな影響があることがわかっています。しかし一方で、「友達つくりましょう」「ご近所づきあいしましょう」と家族以外の人間関係づくりを強いられることに違和感やストレスを感じる人もいます。

西川:男も女も仕事人間だった人やシングルの人は、リタイア後、地域にも家庭にも居場所がない場合が少なくありませんね。

心地よいゆるやかなつながり

澤岡:人生100年時代。寿命が延びる中で、どんなつながりが「心地よい」と感じられるでしょう?色々なつながりがあるに越したことはありませんが、大事なのは「つながりの質」です。自分の日常の生活範囲で、“知り合い以上、友人未満”の「ゆるやか」な人間関係をいかに創るかが大切なのです。

西川:たしかに、地元で商店を経営していたり、若い頃から子どものPTAやお祭りに携わってきた人でなければ、いい歳して町会や自治会で新人デビューするのは気が重い。職場でリーダーシップを発揮した人でも、ボランティアや地域で活動できているのは一握り。スーパーボランティアやカリスマ自治会長になりたいと思わない人も少なくない。どうすればいいのでしょう?

澤岡:むつかしく考えることはありません。日常生活の中で今からできる「つながりのタネまき」をしていけばいいんです。例えば、ワンちゃんを飼っているなら同じ犬種の散歩に出会ったら話しかける、飲める人なら地元の居酒屋に行ってみてください。スポーツクラブで隣の人に「うまいね」とつぶやいたり、花が好きなら鉢植えを玄関に出せば声をかけてくれる人がいるかもしれませんよ。

西川:そうか!自分が興味のあることで小さな一歩を踏み出して、つながりのタネまきをすることが大切なんですね。そのタネから育った地元のつながりが、職場や同窓会といった、歳を重ねるごとに小さくなる今までの公的なつながりを補ってくれるわけですか。

澤岡:「誰かに会いたい」「何かしたい」といった「……たい」がある人は外に出かけていきます。そういった日々の生活における、お互いに心地よい、ゆるやかなつながりが生きがいの源となっていくんです。

リタイアした後の第3の居場所

西川:澤岡先生は、第3の居場所を持つことの重要性を提唱されていますね。

澤岡:人は第1の居場所である家庭、そして、同じ目的を持つ人が集まる第2の居場所である組織・職場に多くの時間を費やします。そして、生活の大半を占めていた第2の場をリタイアした後に、第3の居場所(サードプレイス)を探し始めるわけです。

西川:でも、年を取ってから見つけるのはそう簡単なことではないでしょう。

澤岡:そのためには、現役時代から意識して第3の居場所を少しずつ探しておくことが大切です。人生100年時代になって、長い高齢期を過ごすサードプレイスで新たな生きがいを見つけて楽しむ。これからの大衆長寿社会とは、一人一人がそんな自分の人生の「プロデューサー」になることが求められる時代だといえるでしょう。

西川:たしかにリタイア後に、いきなり飛び立つのはむつかしい。そのためには今から滑走路で助走をつけておかなければ離陸できませんからね。

澤岡:心地よい第3の居場所を探すときに推奨している3つのポイントがあります。一つ目は地元、日常生活圏で探す。二つ目は、ゆるやかにかかわること。そして3つ目は、ちょっとプロダクティブであることです。世話役になるのは気が重くても受付やお茶出しを手伝う、仕事や趣味でつちかったことを教えたり誰かにプレゼントするなど、何か少しでもいいので生産的な活動を行ってみてください。

西川:なるほど、そういった小さなタネまきが、澤岡先生がおっしゃる生きがいが生まれるつながりを育み、花を咲かせるのですね。わかりやすく元気が湧くお話をありがとうございました!

澤岡詩野氏プロフィール

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工学博士。専門は老年社会学。武蔵工業大学工学部建築学科卒業。東京工業大学社会理工学研究科博士後期課程修了。東京理科大学工学部助手、同学総合研究機構危機管理・安全科学技術研究部門客員准教授を経て現職。
(一社)コミュニティネットワーク協会理事、(公財)東京都防災・建築まちづくりセンター理事、(一社)シニア社会学会理事などを務める。西川氏が東京工業大学大学院で非常勤講師を務めたときからのご縁。