高石官均 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

高石官均 × 西川 りゅうじん 【知っ得健康対談】

慶應義塾大学病院 予防医療センター長 / 医学部教授
高石官均先生
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健康寿命をのばそう運動主宰
西川りゅうじん氏

一人ひとりの健康状態に合わせたパーソナライズド・ドック

温故知新で「健康のすゝめ」

西川:高石先生がセンター長を務めておられる慶應義塾大学の予防医療センターが、2023年秋に新たにオープンする森ビルの「虎ノ門・麻布台プロジェクト」に、いよいよ移転・拡張するのですね!

高石:慶應義塾大学病院(以下、慶應病院)は2012年に予防医療センターを開設して以来、皆さんの健康寿命の延伸に努めてきました。お陰様で高いご評価を頂き、予約が数か月待ちという状況になっていました。そこで、規模を拡張してより多数の受診者を受け入れると共に、最新の医療機器を導入し、受診者のニーズに対応した検診プログラムの更新を行ってリスタートする運びとなりました。

西川:慶應病院は設立当初から日常の健康づくりと予防医療を大切にしてきたと聞いています。

高石:1920年(大正9年)の開院から2020年で100周年を迎えましたが、そもそも「健康」という言葉は本学の初代塾長の福澤諭吉の師であった緒方洪庵が生み出し、福澤が『学問のすゝめ』などの著作を通じて世に広めたといわれています。

西川:「健康」という語は現在では中国語圏でも使われていますが、もとは西洋のHEALTHを訳した和製漢語だった可能性が高いようですね。慶應の医学は「健體康心」(けんたいこうしん=健やかな体と康らかな心)を原点に、心身の健康に資する臨床研究に1世紀にわたって取り組んでこられたのですね。

高石:今回の予防医療センターの拡張移転は、当院にとって次の100年に向けての重要プロジェクトであり、「一人ひとりの人生と共に歩む医療を」をコンセプトに、慶應病院が一体となって、健康寿命の延伸の一翼を担うこと、高度に個別化された健康管理プログラムを開発・実践すること、予防医療の新たな価値を創造することを目指して、皆さんの「健康」に寄り添って行ければと考えています。

西川:「一人ひとりの人生と共に歩む医療」という考え方は素晴らしいですね。『サザエさん』のお父さんの磯野波平さんの歳は54歳で、お母さんのフネさんは48歳だと知って驚きましたが、終戦の1945年(昭和20年)頃の日本の平均寿命は50歳でした。しかし、今や「人生100年時代」ともいわれ、人によって、また時と場合によって、一人ひとりの心身の健康状態は千差万別ですからね。

高石:開院当初の用語を使えば、まったく悪いところがない「十全健康」であれば言うことはありませんが、「帯患健康」といって多少の病気を抱えながら生きていくのが現実です。加齢によって身体機能が衰えたり、病気を患いやすくなります。十全健康と帯患健康の間を揺らぎながら、受診者一人ひとりが医師と二人三脚で人生を歩んでいける医療が求められていると思います。

西川:なるほど、高石先生は、まさに温故知新・不易流行で慶應医学の伝統を生かしながら令和の現在にあるべき『健康のすゝめ』を実践されようと考えておられるのですね。健康に長生きするためにどういったことに気を付ければよいでしょうか。

医師としての原点を忘れない

高石:日本人の死因の1位はがんで、4人に1人以上ががんで亡くなっています。女性の死因の1位は大腸がんですが、早期に発見できればそのほとんどは治ります。しかし、女性の中には恥ずかしさから検査をためらって手遅れになってしまうケースもあります。まず何より大切なのは早期発見・早期治療です。

西川:平成元年にはがんによる死者は約21万人でしたが、令和に入って約38万人とほぼ倍増しています。日本は先進国で唯一、がんによる死者が増え続けており、アメリカの1.6倍もの人ががんで亡くなっています。

高石:日本人の死因の2位は心疾患、3位は老衰、4位は脳血管疾患、5位は肺炎ですが、定期的に健康診断を受診することで多くの命が救えますし、寝たきりにならずに済むことが少なくありません。

西川:一命を取り留めたとしても、なるべく長く心身ともに健康で元気に生きたいですからね。大切なのは時間的な寿命の長さより、健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる健康寿命をいかに長くできるかでしょう。

高石:2021年の日本の平均寿命は男性が81歳強、女性が88歳弱で男女ともに世界一です。しかし、厚生労働省が公表した2019年の健康寿命は男性72.68歳、女性75.38歳で、平均寿命と健康寿命の差は実に男性が8.73歳、女性は12.06歳もあります。この医療や介護を必要とする期間を少しでも縮めることが、ご本人にも家族にも社会にも重要です。

西川:そのための新たな拠点の一つとして拡張移転される予防医療センターでは、メンバーシップ制で世界トップレベルの最先端の医療を提供されるのですね。

高石:目指すところは、早期発見・早期治療のその前の段階で、病気にならない心身ともに健康な状態を受診者と医師がタッグを組んで創り上げていくことです。そのためには、Evidence Based Medicine(科学的根拠に基づいた医療)にプラスして、Narrative Based Medicine(物語りと対話に基づいた医療)が大切だと考えています。

西川:なるほど。先生に話を聞いてもらうだけで癒されますし、生活習慣病という通り、日常生活を伴走してもらえれば鬼に金棒ですね。

高石:駆け出しの研修医の頃、転院されて来た末期がんの患者さんのお話をよく聞いてお腹をしっかりと触診しただけで、ご家族からとても感謝されたことが忘れられません。そんな私の医師としての原点、慶應医療の原点を忘れず、精進して参りたいと決意を新たにしています。

西川:あらためて「医は仁術」なのだと感じ入りました。ご健闘をお祈りします!

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高石官均先生プロフィール

高石官均先生

慶應義塾大学医学部卒業。医学博士(内科学)。同学包括医療先進センター専任講師、腫瘍センター長などを経て現職。長年にわたり国内外で、潰瘍性大腸炎・クローン病など炎症性腸疾患、及び、腫瘍・がんの療法に関する研究・臨床に従事し、斯界の第一人者として知られる。日本内科学会認定医、日本消化器病学会専門医・指導医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医・指導医。日本がん治療認定医機構がん治療認定医。